イギリスにおける家庭養護推進の視察研修

 私は、「子どもの社会的養護(特別養子縁組)制度検討WT」の事務局次長で、「民主党 社会的養護の必要な子どもたちを応援する議員連盟」のメンバーでもあります。

 社会的養護とは、保護者のいない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。

 ですが、この「社会的養護」に関し、日本は様々な課題を抱えています。特に重要なのが、日本の社会的養護は、児童養護施設や乳児院等の「施設養護中心で、里親や養子縁組など家庭の中での養護の比率が国際的に見ても非常に低いということです。

 この課題に取り組むため、2月の上旬に、同僚の西村まさみ議員をはじめ、この問題に取り組んでこられた方々(児童相談所の方や里親会会長等)と、家庭養護推進の先進国とも言えるイギリスに視察に行ってまいりました。 

 今回の視察は非常に情報量が多い盛り沢山なものでしたので、特に強く印象に残ったのみ抽出してご報告致します。


◇バレリー・ホワース貴族院議員(女性男爵Baroness Valerie Howarth)が彼女の政策である「施設終焉(社会的養護の脱施設化)」についてレク。国会(貴族院)の1室で行われました。 

 

1.イギリスにおける社会的養護の歴史と経緯 

・以前はイギリスも施設中心だった。

・「ソーシャル・ワーカーの登場」が大きな契機となり、社会的養護の改革が行われた。

・その後、「小さな政府」への方向転換。

  →ソーシャル・ワーカーの人員や社会的養護に関する予算の削減。

・当時は、少人数で多人数の面倒を看るために、施設養護の問題ある実態:精神安定剤の濫用と物理的な拘束(ex. 縛る、檻<ケージ>)も行われていたとのこと。

・それに対し、施設養護の問題点に関する科学的なアプローチ:施設養護のネガティブなエビデンスの提示

A.犯罪者の施設出身者比率の分析(高い比率を示した)

B.脳科学的な分析

・3歳までの養育環境により、脳の形質に物理的な差異が生じている。:

    施設養護(=刺激の少ないためシンプルな脳形質) 
    vs 家庭養護(=刺激を多く受けているため複雑な脳形質)

  ※家庭養護の場合であっても、家庭内でのネグレクト児童の場合には、施設養護と類似の形質を示している。

 ⇒「家庭養護の尊重」への軌道修正 が図られ、現在に至る。

★イギリスの社会的養護の共通テーマにして共通認識:

インスティテューショナライゼーション(施設養護)の終焉』 

・現在:イギリスの要保護児童のほとんどが3歳までに里親に預けられる。

 ・ごくごく一部(例外)が施設、グループホーム入所(としても少人数)。

  →医学的な特殊事情など、よほどの事情がある場合のみ。

 

2.Nick Crichton(元家庭地方裁判官、ルーモス理事)

・パネリストの一人。現役の裁判官の教育役。

・彼の考え方(ポリシー):子供の権利を守ることを第一に念頭に置きながら、司法(家庭裁判)の判断を下すべき。まさに、「チルドレン・ファースト」の理念の実現(司法の場における実践)。

 

3.Roger Goodman教授(オックスフォード大学社会科学学部長、日産現代日本研究所教授)

・日本の児童養護施設で十年近く働いた経歴のあるイギリス人から見た、日本とイギリスの児童福祉制度の比較。

・イギリスのグループホーム:少人数、外見も普通の家。児童福祉施設としての看板も付けず。外から見ても、「普通の子供」に見える。

・彼が体験した当時の日本の施設:子供がユニフォーム、移動用のバスにもロゴ、看板でも明示。狭い部屋に大人数。保護してくれる実親のいない「要保護児童」だというレッテルを貼りながら生活しているようなもの。

 

4.Andor Urmos (政策研究者,欧州委員会:地方と都市の政策総局)

・地域を基盤としてサービスの構築のためのEUの構造基金の支給(EU全体を対象としての施設脱却の達成事例に助成金交付)。

・但し、EU全体だと膨大な施設数。一々チェックしては歩けない。従って、自己申告、具体的なレポートを必要とする方式となっている。

・但し、申請外の施設に対しても、「ランダムチェック」は実施している。

・そこで指摘された事例:新設の児童福祉施設があり、なぜか僻地の不便な場所に所在。その他にも問題あり。なのに、当該政府はその施設を絶賛。

→EUの統一見解と各国の見解の不一致も生じている。

→各国のリーダーの、社会的養護に関する理解や識見の向上も必要。

 

□社会的養護の向上、家庭養護の推進に関し、以下の様な問題点にも留意が必要。

 ・利害関係者、特に職場を失う「施設で働く人たち」の「施設閉鎖」についての抵抗や反発も大きい(よって票目当ての政治家による迎合も)。

 ・民間組織の利益追求との衝突。

 ・子供の意思や相性、相手方(里親候補)の質に留意しない不適切な「施設退所」(強引な助成金目当てのマッチング)

 

5.オックスフォードのソーシャル・ワーカーによる報告

「日英比較及びイギリスのソーシャル・ワーカー業務の特徴」 

・里親探しのマッチングに関するアセスメント期間

 ・イギリス :平均6-8週間

 ・日本        :半年以上

・ソーシャル・ワーカーの担当件数(同一時期に抱えている児童数)

 ・イギリス :平均30-40件

 ・日本        :数百件以上

・実務に関しては、ソーシャル・ワーカーの裁量で、優先順位を設定(優先度・緊急度の高い事例を優先処理)。

・担当児童に対する訪問回数の目安はあるが、それを超えて訪問しているソーシャル・ワーカーも多い。

・里親里子のマッチングを決定するソーシャル・ワーカーには、ある程度の経験と実績を必要とする制度となっている。

(ex. 児童福祉施設の施設長を2年以上経験 等)

・マッチングにあたっては、兄弟はなるべく離さない方向での委託が志向されている。

・イギリス以外(他国)出身の難民、移民を出自とする要保護児童も多い(社会養護の国際化)。

 その場合、英語ができない等の特殊性に対応する必要もある。イギリス全土で、地域ごとに里親の割当が来る仕組みとなっている。 

・イギリスの国のアセスメント制度は色々な国のアセスメントの良い点を採り入れたもの。

・アセスメントのアセスメントも実施されている。 

◇オックスフォードの市議会本会議場で、イギリスのソーシャル・ワーカーから、里親里子のマッチングについてのご説明を受け、また、里親対象者に対する事前レク自体を体験しました。

  

 

6.Tollgate Primary School

◇Tollgate Primary Schoolにて、詳しいレクと質疑応答。

   

・傑出した包括教育をし、子どもセンターが学校に併設されている。教育者の教育機関であり、包括教育のハブ。

・外国の出身児童、ハンディキャップを抱えた児童、実親による養護を受けられない児童など、様々な児童が登校している。

・むしろ、異国、異文化、差異の受入を学ぶ実践的な場になっている。

・「5つのC(5Cs)」がどのクラスにも掲示。

◇Tollgate Primary Schoolでは異文化教育が実践されていました。 

  

  

7.まとめ(私見)  

・イギリスが家庭養護の推進に成功している背景には、文化的な側面も影響していると思われる。すなわち、イギリスにおいては、「隣人を助ける」というキリスト教の教えが浸透している。牧山自身の知見でも、養子や里子を考えたことのない英米人はむしろ少数。また、これらの国では里子や養子経験者も身近にいることが多い(身近な存在)。

・それに対して、日本ほどクローズドの社会文化はない(家庭の敷居の高さ・家族以外は家に入れない)。内と外の区分けが厳しい。それが家庭養護の推進におけるハードルになるのではないか。

・その一方、現在の日本では出産の二極化(一部出産の若年化と出産平均年齢の高齢化)の傾向がある。それに伴う望まない子供の増加と、不妊問題の深刻化は今後増々進行すると思われる。この点、クローズドな文化の壁を超える社会的養護、そして家庭における養護推進のニーズが生じてきているのではないか。 

以上